2009年から2010年にかけて上演された宙組公演『カサブランカ』のDVD販売が、2015年11月末にて終了するそうです。
「この商品は11月30日(月)までの販売となります。」
宙組『カサブランカ』って?
2009年上演『カサブランカ』は名優ハンフリー・ボガート、イングリッド・バーグマン主演で1942年に製作され、現在まで名画として名前を挙げられるアメリカのロマンス同名映画の世界初舞台化作品。
大空祐飛、野々すみ花の宙組新トップコンビのお披露目公演でした。
「君の瞳に乾杯」「そんな先のことはわからない」などの名台詞は舞台でもそのまま使われています。
終了の理由
販売終了の理由をTCAに問い合わせてみました。
今回は結論から書いてしまいますが、「著作権」がその理由だそうです。
TCA様 丁寧にお答えいただきありがとうございます。
ここでそうなのかーと終わってもよいのですが、もう少しだけ詳しく調べてみました。
『カサブランカ』をめぐる著作権事情
この舞台の原作となった映画『カサブランカ』は、パブリックドメインです。
パブリックドメインDVD(Public Domain DVD、PDDVD)は原版保有者(元・著作権者)の許諾の必要がない、著作権の保護期間が満了したものや、何らかの理由で著作権が消失したパブリックドメイン(PD)の映像作品をDVDに記録したものをいう。
書店などで500円名作映画DVDコーナーをみかけたことがあるひともいるでしょう。
『カサブランカ』もそのひとつで、あの映画の数々は主にパブリックドメインであるために、500円販売でも利益が出るシステムになっているのだそう。
しかし日本において、映画などの著作権保護期間については解釈がさまざまあり、同じようにパブリックドメインとされた『ローマの休日』、チャップリン映画、黒澤明映画などをめぐって裁判が起きていました。
日本の著作権法がたどってきた経緯などはこちらが詳しいです↓
こうした中『カサブランカ』に対しても見解が分かれていました。
著作権の保護期間そのものについても、実は解釈が分かれている。現在の著作権保護期間は創作後70年と定められているが、2004年に改定される以前は50年だった。それゆえに、1953年以前に製作された映画は2004年の時点で保護期間が切れているから著作権は消滅しているという見解と、改めて70年という保護期間を適用するべきだという見解とで真っ向から対立している。なので、1942年製作の「カサブランカ」は、前者の見解を適用するならば著作権は1992年に消滅しているが、後者の見解を適用した場合には2012年まで著作権が存在することになる。
TPPが大きな理由?
そこへ 2015年夏、現在も調整中の「TPP交渉」により、著作権保護期間をアメリカが採用している「70年」で世界的に統一しようという動きが出てきました。
環太平洋経済連携協定(TPP)交渉で、参加12カ国が著作権の保護期間を「作者の死後70年」で統一する方向で最終調整に入ったことがわかった。日本では現在「50年」のため、確定すれば20年間延長される。
宙組公演は2012年より以前ですから、70年保護が確定すると新たに歌劇団に膨大な著作権料の支払いが発生してしまうことになります。
(※改めてみるとあとの主要キャスト2人も後にトップになっててすごい)
もちろんこれは私が勝手に考えて解釈しているだけのことですが、……おそらくタイミング的にDVD販売終了の理由はこのあたりなのではと、感じています。
『カサブランカ』の今後
この流れを受けて『カサブランカ』は、DVDだけでなく宝塚専門チャンネル「スカイステージ」でも、『エリザベート』などのように限定的にしか放送されなくなるかもしれません。
舞台版『カサブランカ』は特に宙組の下級生にいたるまでひとりひとりの細かな演技と渾身のコーラスがあり、派手ではありませんがこの先若い世代のジェンヌで再演してほしいくらい良い舞台ですから、これで知らないひとがこの先増えるとしたら残念です。
2015/11/29 追記
同じトップコンビ主演の宙組で2010年~2011年に上演された『誰がために鐘は鳴る』DVD(こちらも同様にパブリックドメイン)も、『カサブランカ』よりいちはやく販売を終了していました。
ヘミングウェイによる原作小説は1940年出版、映画は1943年製作ですから
おそらく『カサブランカ』と同様の扱いとして販売終了は判断されたのでしょう。
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この宙組公演は実は再演。
初演は鳳蘭、遥くらら主演で1978年に上演されています。
初演当時は日本国内で、著作権という考え方自体が現在ほど浸透していませんでした。
宙組公演2本が、DVDラインナップから姿を消すことになります。
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